p.3 音楽って何だろう?
イイダヨシヒサ

音楽とは「なくてもいいけど、あったらいいもの」である。

イイダヨシヒサ(傘作家)

人が生きていくのに必要なのは衣食住。縄文時代からそうらしい。
考えてみれば衣食住のどれにも当てはまらない=音楽は必要ない?
はたしてそうだろうか。

僕はオーダーメイドで傘を作る仕事をしています。オーダーメイドの傘も考えてみればなくてもいいかも。タイムマシンにのって高校生の自分に聞いたらきっと「なくてもいい」と言いそうだ。ただ、今こうして仕事をしていて思うのは、オーダーメイドの傘作りはとても楽しい仕事。オリジナルの絵柄の布をデザインし、それを傘に仕立てて展示会を開催し、オーダーをもらい、その人のために傘を作る。飽きずに毎年やっているけれど、とても楽しく幸せな仕事だ。オーダーしてくれるお客さんも「こんな傘見たことない」「新しい傘のデザインが楽しみ」「雨の日が好きになった」と、とても楽しんでくれている。

好きで傘を作りはじめた頃、人の役に立たないような気がしてとても不安だった。だけど作り続けていくうちに楽しんでくれる人が出てきた。僕の作る傘を待ってくれる人が徐々に増えてきた。そうして気がついたのは“なくてもいいもの”とは“あったらいいもの”なのかもしれないということ。今は縄文時代からしたら未来の令和の時代、衣食住にもう一つ二つ増やしていいと思う。それが何かは人それぞれ。傘でもいいし、デザインでもいいし、音楽でもいい。そう考えると世の中の“なくてもいいもの”とは、幸せなものなのかもしれない。