表紙について

田中達也(たなか・たつや)

ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアー ト「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。国内外で開催中の展覧会、「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」の来場者数が累計130万人を突破。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小 説「ひよっこ」のタイトルバック、日本橋高島屋S.Cオープニングムービーなど。Instagramのフォロワーは270万人を超える(2021年1月現在)。著書に「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」、「Small Wonders」、「MINIATURE TRIP IN JAPAN」など。


表紙に込められた思い

── 今回の教科書の表紙について、生徒たちに「こんなところを見てほしい」「こんなふうに感じてほしい」といった願いはありますか?

田中:僕自身、クラリネットやリコーダーを組み立てて作品の中に置きながら、あらためて「こういう形なんだなあ」と意識することができました。表紙を見てくれる生徒たちにも、楽器の形に対する興味や愛着をもってもらえたらいいなと思って います。クラリネットとリコーダーを列車に見立て、作品には《音楽に乗り乗り》というタイトルを付けました。ダジャレと言えばダジャレなんですけれど、“言葉の見立て”になっていることを意識して作品を見てもらえると、より楽しめるのではないかと思います。

── 作品からは「立体の奥行きを感じる心」が伝わってきます。構図やフレームワークは最初からすんなり決まりましたか?

田中:楽器を並べたとき、リコーダーの大きさがクラリネットに比べてかなり小さかったんです。手元にあったのはソプラノリコーダーだったので。これではリコーダーは使えないなあと思っていろいろ調べてみたところ、アルトリコーダーを発見したんです。取り寄せてみるとサイズがぴったり!ミニチュアはイラストと違って、サイズを簡単に変えられません。だから毎 回、作品に使う小物を準備するときにサイズ感を合わせるのがいちばん苦労するところですね。

── 駅舎や周りの建物なども含めて、田中さんのアート力が反映されています。

田中:今回の表紙作品には、学校の勉強と関連しないもの、音楽の授業と全く関係のないものは置かないことを意識しました。本や鉛筆など学校で使うもので構成しています。線路は本物の模型です。Nゲージ(9ミリゲージ)の線路がクラリネットやアルトリコーダーにばっちり合いました。主役をどう引き立たせるのか考えて、違和感を出さないようにいろいろな素材や小物を使い分けます。表紙を見た生徒たちがわくわくしてくれたらうれしいですね。

── すっかり田中さんの“見立て”の世界に引き込まれました。最後に、高校生を含めた若者たちへメッセージをお願いします。

田中:好きなことがあったら、とにかく真剣に取り組んでみるとよいのではないかと思います。僕は大学時代にずっと三味線を弾いていました。長唄と地歌です。和楽器のサークルに入 り、プロを目指すぐらい練習して単位が危なくなったほど ……! 今はほとんど弾かなくなってしまいましたが、三味線の曲はよく聴きます。昔の自分の演奏を聴き返すことも。

── 三味線というのは意外でした。特別なジャンルだという感じもなく、自然に心ひかれていったのでしょうか?

田中:全く抵抗はありませんでした。基本的に他の人がやって なさそうなことに興味をもつ性格だったからかもしれません。楽器を練習することってこんなに楽しいのか!と新たな世界が開け、のめり込みました。周りに認められるかどうか、ということは置いておいて、何かを本気でやってみる経験も人生の糧になるのではないでしょうか。例えば、「プロゲーマーになりたい」「プラモデラーになりたい」でもよいと思います。高校や大学というのは、そうしたことを試せるいちばんよい時期だと思うので、あまり周囲の目を気にせず好きなことに挑戦してほしいですね。