p.2 音楽って何だろう?
古川日出男

音楽とは、目を閉じても見える色彩を持った、人類の友だちです。

古川日出男 作家
1966年福島県生まれ。早稲田大学文学部中退。1998年、長篇小説『13』でデビュー。第4作となる『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞。『LOVE』(2005年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(2015年)で野間文芸新人賞と読売文学賞をダブル受賞。2016年刊行の池澤夏樹=個人編集「日本文学全集」第9巻『平家物語』の現代語全訳を手がけた。その他の代表作に『サウンドトラック』(2003年:仏・伊語に翻訳)、『ベルカ、吠えないのか?』(2005年:英・仏・伊・韓・露語に翻訳)、『聖家族』(2008年)、『馬たちよ、それでも光は無垢で』(2011年:仏・英・アルバニア語に翻訳)、『南無ロックンロール二十一部経』(2013年)などがある。文学の音声化としての朗読活動も行なっており、2007年に文芸誌『新潮』で朗読CDを、2010年には文芸誌『早稲田文学』で朗読DVD『聖家族 voice edition』を発表。宮沢賢治の詩を朗読したCDブック『春の先の春へ 震災への鎮魂歌』(2012年)も刊行している。また他ジャンルの表現者とのコラボレーションも多く、これまでに音楽家、美術家、漫画家、舞踊家等との共演・共作を多数行なっているほか、2014年には蜷川幸雄演出の舞台のために戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』を書き下ろした。2011年の東日本大震災の後、自ら脚本・演出を手がける朗読劇『銀河鉄道の夜』の上演や、言葉と表現をテーマにワークショップなどを行なう「ただようまなびや 文学の学校」の主宰など、集団的な活動にも取り組み文学の表現を探究している。近年は世界各地で開催されている文学イベントに度々参加し、講演や朗読パフォーマンスがいずれも高評を得ている。

【本人による解説】
 音色という言葉があります。この語句に触れるだけで、日本人は「音楽に色彩を感じていたのだ」とわかります。私たちは「明るい音楽」や「暗い音楽」を感じることも多いですが、これだって色彩の表現です。そんなふうに考える時、とても不思議な驚きに包まれませんか? 目に見えない音楽というものに、そんなふうに色があふれていることに? 私たちは、毎晩毎晩、夜になるたびに世界から色彩を喪失します(世界が暗くなってしまうから。黒色に染められてしまうから)。にもかかわらず、あなたは、あなたを明るい気持ちにさせる音楽に耳を傾ける時、やっぱりカラフルな陽気さに包まれるのです。とてもとても、不思議ではないですか? こうした魔法が、音楽というものを人類の暮らしに欠かせない「芸術」にしたのだと、私はそんなふうにも考えています。音楽とは、人類の友だちです。