表紙について

中村佑介(なかむら・ゆうすけ)

1978年生まれ。兵庫県宝塚市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。ほかにもアニメ『四畳半神話大系』や『果汁グミ』TVCMのキャラクターデザイン、セイルズとしてのバンド活動、テレビやラジオ出演、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。初作品集『Blue』は、画集では異例の9.5万部を記録中。


全ての教科が役に立つ

── 今回も教科書の表紙を手掛けていただきましたが、どのように取り組んでくださったのでしょうか?制作前にはまた内容も読み込んでくださったそうですね。

中村:僕は仕事を依頼してくださった会社の、失敗できない立場にいる社長の気持ちになることから始めます。「次の教科書ですべったら、自分のせいで教育芸術社さんがつぶれるぞ」みたいに(笑)。「先生が気に入る表紙」「生徒が気に入る表紙」「教育芸術社さんが胸を張れる表紙」。それぞれ3つの案件を満たす三角形の中心点を見つけるために、最近の高校生や先生方の意見を聞いたり、ツイッターなどのSNSで情報を集めたりして勉強しました。

── 頭の下がる思いです。今回の新しい教科書の中で、中村さんが気になった音楽はありますか?

中村:おもしろいと思ったのは、水を太鼓のように演奏する「リクインディ」です。今回は教科書のQRコードからその音楽まで聴けて、かなりマニアック度が上がっていますね。僕は ジャズ、ソウル、R&Bなどリズム感のある音楽が好きなんです。音符があろうとなかろうと、リズムに乗って気分が高揚するのは音楽のもつ力だと思います。

── 教科書を手に取った生徒には、どのようなことを感じてほしいですか?

中村:1年間の授業が終わって、生徒が教科書の表紙を見返したときに、「この表紙ってこういう意味だったんだ」「教科書って私たちのことを考えてくれているんだな」と、少しでも何かに気付いてもらえたらうれしいですね。そして「なんだか音楽の教科書って捨てられないな」と感じてもらえたときに、僕は役割を果たせたと言えます。

── ありがとうございます。最後に、若い人に伝えたいことはありますか?

中村:学校で勉強した教科の全てが、将来の役に立つということです。大人になってからどのような職業に就いたとしても、フリーであっても会社に所属していても、それまでに身に付けたさまざまな知識は本人の可能性を広げます。例えば僕のイラストの仕事は、その商品の物語を1枚にまとめることです。これは、国語の授業が役に立ちました。「この文章を要約しなさい」という課題で考えたことが、現在に生かされています。広い知識は多くの人々と関わるときに非常に役立ちます。そして実は学校で学べることは、あまりインターネットには載っていない。音楽の教科書の表紙を描くにあたって、教科書に掲載されていた外国の音楽について調べてみても、その国の言語でないと情報が出てこない。どの教科でも、簡単には知ることができない専門的な内容を、学校と教科書で学べます。若い方々には、ぜひ何でも楽しんで学んでほしいと思います。