p.2 音楽って何だろう?
小堀芙由子

音楽とは、自分を形づくるもの。

小堀芙由子 茶道家
1985年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2019年に茶道小堀遠州流次期家元を襲名。茶道家として、音楽や舞踏とのコラボレーション、現代アート展示会での茶会、海外での公演など幅広く活動し、新しくも真っ当で美しい茶の湯のあり方を日々探っている。

【本人による解説】
 私は茶道を代々伝える家に生まれたので、「将来はお茶の先生になるんだよ」と言われて育ちました。親の意見に従うことが当たり前だったのですが、高校生のころ「私って“自分の意見”がないかもしれない」と気付いてがく然としました。何が好きで、何を目的に生きているのか、自分とは何か。親や周囲の意見は「私のもの」ではないと知ったとき、では何を「私のもの」とすればいいのか分からなくて、混乱しました。「あのタレントがかわいい」とか「このペンケース素敵」とか、そういうことすら自分の意見として表すことができなかったのです。でも音楽だけは、自分にとって好ましい曲がはっきりと分かりました。心地いいリズムと合わさって、乾いた土に水が染み込むように心にすっと入り込み、言葉にできない感情のよりどころとなり、つらいときを何度も支えてくれました。布団の中で背中を丸め、小さなプレーヤーで何度もリピートしてすがりつくように聴いていた曲の数々は、今も私の血肉になっていると感じます。