p.2 音楽って何だろう?
ジョン・ブラッキング

音楽は、人間が組織づけた音である。
Music is humanly organized sound.
(『人間の音楽性』より)

ジョン・ブラッキング John Blacking 社会人類学者・音楽学者
イギリスの社会人類学者、音楽学者。大学で人類学を学んだが、ピアノの演奏が得意で、伴奏ピアニストをしたこともある。1950年代から1960年代にかけて南アフリカの人々の音楽と文化を研究した。その経験から、『人間の音楽性How Musical is Man?』という本をまとめ、多くの研究者に影響を与えた。1970年から亡くなるまで、北アイルランドのクイーンズ大学で社会人類学の教授を務めた。

【解説:薦田治子】
 イギリスの社会人類学者、音楽学者のジョン・ブラッキング(1928~1990)は、『人間の音楽性』という本の中で、「音楽とは、人間が組織づけた音である」と言っています。ここには、音楽であるための条件として「人間」と「組織づけ」と「音」という3つの言葉が含まれています。
 音楽が「音(音響=空気の振動)」であることは、議論の余地がないでしょう。
 次に「人間」ですが、音楽は人間のいないところには存在しません。楽譜やCDは音楽ではありません。それを演奏したり、再生したりする人間がいなければ、音楽になりません。また機械から自動的に音が流れていても、聴く人がいなければ、音楽は存在しないも同じです。つまり、音楽は、演奏したり歌ったり聴いたりという人間の行動の結果として存在するのです。音楽と人間は切り離せないのです。
 「組織づけ」という言葉は少し難しいかもしれません。私たちの身の回りにはさまざまな音がありますが、それらを、手当たりしだいに寄せ集めても、音楽にはなりません。それが音楽になるためには、何らかの約束事に従って音が集められる必要があります。もし、その約束事を守らないと、それは音楽ではなく、ただの「でたらめ」にしか聞こえません。このように、約束事に従って、音をつなげたり重ねたりすることを、「音を組織づける」と言います。その約束事をシステムとか理論とか呼ぶこともできます。
 ブラッキングは西洋のクラシック音楽が大好きでしたが、アフリカの音楽を研究するうちに、音を組織化する約束事が、民族により、社会によりさまざまであることに気付きました。例えば、西ヨーロッパの人たちは、1オクターヴに「ドレミファソラシ」の7つの音を考えて音楽をつくりますが、東アジアの人々のように、「きゅうしょうかく」の5つの音で立派な音楽をつくる人たちもいますし、西アジアの人々のように、7つでは足りないという人たちもいます。もし、世界各地の人々のもつ音楽性(音楽をつくる能力、音楽をする能力)を足し合わせれば、人間の音楽性はとても豊かで大きなものになるでしょう。